偽装請負で注意すべき点とは?IT法務に強い弁護士が解説

最終更新日: 2023年12月5日 by it-lawyer

この記事を書いた弁護士

スタートビズ法律事務所 代表弁護士

スタートビズ法律事務所代表弁護士。出身地:京都府。出身大学:東京大学。 主な取扱い分野は、「契約書作成・チェック、問題社員対応、労務・労働事件(企業側)、顧問弁護士業務、IT・スタートアップ 企業の法律問題」です。

IT・スタートアップ企業の契約書・労務問題はお任せください。

弁護士のプロフィールはこちら

こんにちは、IT企業のための弁護士、宮岡遼です。

今回は,IT法務に関する偽装請負で注意すべき点について説明したいと思います。
「あまり聞かないし厳しく取り締られないのでは?」「通報するような人はいないしうちは大丈夫」などと考える企業も多いと思います。

しかし,日々どこかの企業に労働局の職員が現れ、労働者派遣法や職業安定法違反の取り締りが行われています厚生労働省資料では、偽装請負の事例ではありませんが、令和4年10月付けで労働者派遣事業及び有料の職業紹介事業の許可を取り消しまでされていることが確認できます)。

また、「労働局は急にやってこないだろうし、ワンクッションあるからそれから考えればよいのでは?」と考える企業もあるかもしれません。

しかし、労働局から連絡があった後に新たに証拠を作って違法を免れることは困難であり事実上不可能といえます。

したがって、労働局に対して、説明できる状態を事前に弁護士と協議して作っておくことが必要なのです。

目次

IT法務における偽装請負の危険性

リスク

 違法状態を放置するリスクとしては、行政指導、改善命令、勧告、企業名の公表という行政監督を受けたり、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられるという大きなリスクがあります。

また、違法状態となっていた場合は、偽装請負が開始した時点で、発注者が受注者の労働者に受注業者と同じ雇用条件で、直接雇用の申込みをしたものとみなすとの重大な規定があります(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第40条の6第1項)。

これにより、発注業者は、想定外の労働基準法や労働安全衛生法の義務の履行を要求されたり、義務違反による刑事罰などの制裁を受けるリスクがあります。

エンジニアの不足

 2018年時点でのIT人材の需要と供給の差は22万人あり、2030年に最大約79万人のIT人材が不足すると予測されています経済産業省の「IT人材需給に関する調査」参照、最低シナリオでも約16万人不足すると試算)。

 このようにエンジニアが不足している状況では、自社に十分なエンジニアがいないこともよくあります。

 そのような場合に、他社のエンジニアに作業してもらい自社のサービスを完成させる必要に迫られることもあります。 

 このような場合に、偽装請負は起こります。

請負契約だけでなく委託契約にも当てはまる

 「偽装請負」という呼び方をされますが、請負契約だけに限らず、委託契約・委任契約にも適用されます。

 偽装請負の問題とは、実質的には労働者派遣であるので労働者派遣法に定められている手続きや労働基準法・労働安全衛生法等に関する義務の履行をしないといけないのに、請負や委託を偽装してこれらの義務の履行をしないという問題です。

 そして、実質的に労働者派遣(又は労働者供給)であるというのは、実際に作業する受注業者の労働者に指揮命令をしているのが彼らの雇用者である受注業者の者ではなく注文主の者であるということです。

 形式的に注文主と受注業者の間で請負契約書や委託契約書を締結していても関係ありません。

 実態がどうなっていたかという実質の問題なのです。

基準を理解・整理することが容易ではない

 請負契約や委託契約と偽装請負との区別については、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(昭和 61 年労働省告示第 37 号)」が基本的基準となります。

 しかし、これに付随して複数の質疑応答集により基準が補充されるなどしており、複雑となっており、分析と自社における適用の有無等について検証することが必要です。

 注文主が注意すべきポイント

 以下、注文主がまずは確認するべきポイントを解説していきます。既にご説明したとおり、注文主が実際に作業する受注業者に雇用される労働者(以下「作業者」といいます。)に指揮命令をしていないと判断されるためのポイントになります。

注文主が受注業者に対して、実作業に従事する労働者の人選・配置、技量・能力を事前に審査しないこと

 注文主がこれらのことをすると、受注業者への発注ではなく、作業者への発注とみなされるため、実態は注文主が作業者に指揮命令をしていると判断される可能性が高くなります。

注文主が作業者に対して直接的に仕事の進め方などを指示していないこと

 注文主が左御者に対して直接的仕事の進め方などを指示してしまうと、実態は注文主が作業者に指揮命令をしていると判断される可能性が高くなります。

 作業の現場に、請負業者に雇用された現場責任者を置く必要があります。作業に関する指示は、現場責任者をとおして行うことになります。

 なお、1人で作業者と現場責任者を兼務することはできないため、受注業者の者が最低2人は必要となります。

作業者の出勤・欠勤、遅刻・早退や休暇取得等の労働時間管理をしていないこと

 注文主が受注業者の労働者の出勤・欠勤、遅刻・早退や休暇取得等の労働時間管理してしまうと、実態は注文主が作業者に指揮命令をしていると判断される可能性が高くなります。

 注文主は、作業者の上記事項についてはタッチしてはいけません。

受注業者が雇用する作業者と注文主が雇用する労働者が、混在して同じ作業をしていないこと

 受注業者が雇用する作業者と注文主が雇用する労働者が、混在して同じ作業をしてしまうと、実態は注文主が作業者に指揮命令をしていると判断される可能性が高くなります。

請負主が注意すべきポイント

完成すべき仕事の内容・成果物が注文主との契約書に明記されていること

 注文主との間の請負契約書または委託契約書に仕事の内容・成果物が注文主との契約書に明記されていることが重要です。

 明記されていなければ、実際の仕事内容は発注業者が作業者に指示するものと想定されていたとして、実態は注文主が作業者に指揮命令をしていると判断される可能性が高くなります。

請負代金がスキルに対する料金であること

 発注者から受注業者に支払われる請負代金ないし委託料金が、時間(時給)や日数(日給)で計算されていないことが重要です。

 そうでなければ、発注主が作業者を雇用しているのと類似の状況といえますから、実態は注文主が作業者に指揮命令をしていると判断される可能性が高くなります。

請負業務に必要な機械や費用を請負業者自ら準備・調達すること

 こちらも受注業者が発注者から独立しているといえるために必要であり、発注業者が準備・調達しているとなると、実態は注文主が作業者に指揮命令をしていると判断される可能性が高くなります。

作業現場に請負業者の労働者である現場責任者がいること

 注文主の現場責任者が作業者に対して直接業務上の指示を行うことはできません。

 そのようなことをしてしまうと、実態は注文主が作業者に指揮命令をしていると判断される可能性が高くなります。

IT法務における先端的問題

アジャイル型開発

 アジャイル型開発とは、「発注者側の開発責任者と発注者側及び受注者側の開発担当者が1つのチームを構成して相互に密に連携し、随時、情報の共有や助言・提案をしながらシステムの開発を進めるもの」と定義されます。

すなわち、従来のウォーターフォール型開発のように最初に全ての工程を決めてあとは前に進むのみ、引き返しはしないというような開発工程ではなく、状況に合わせて柔軟に開発を進めるものをいいます。

 アジャイル型開発においても、従来の偽装請負の議論が妥当するのかという疑問の声が大きかったところ、厚生労働省は、アジャイル型開発の密な連携・随時の情報共有が必要である点に配慮しながらも、質疑応答集において、アジャイル型開発でも、基本的には従来の偽装請負の議論が妥当することを明らかにしております。

 厚生労働省は、発注者側と受注者側の開発関係者のそれぞれの役割や権限、開発チーム内における業務の進め方等を予め明確にし、発注者と受注者の間で合意しておくことや、発注者側の開発責任者や双方の開発担当者に対して、 アジャイル型開発に関する事前研修等を行い、開発担当者が自律的に開発業務を進めるものであるというようなアジャイル型開発の特徴についての認識を共有しておくようにするという対策案を提示しています。

出向とすれば万事解決か?

 出向とすれば全て解決できるように思えるかもしれません。

 しかし、受注業者がこれに同意することが必要であることはもちろんですが、労働者供給に該当し職業安定法第44条違反となる可能性があります(いわゆる「偽装出向」の問題)。

 その場合は、職業安定法第44条違反による一年以下の懲役又は百万円以下の罰金の刑罰等のほか、作業者とは労働契約を締結することになりますから、労働基準法・労働安全衛生法の規定を遵守し、残業代の支払や労災への対応をする必要があります。

 請負・委託か、労働者派遣か、出向かという判断は自社の状況及びリスクに応じて、戦略的に選択する必要があるのです。

偽装請負について弁護士に相談するメリット

リスクを見積もることができる

自社のリスクを見積もることができ、偽装請負問題に対する自社の状況を把握することができます。 

解決に向けた具体策の提示

 請負・委託か、労働者派遣か、出向かという判断は自社の状況及びリスクに応じて、戦略的に選択する必要があります。

 弁護士に相談すれば、自社のニーズに応じた最適な解決法の提示を受けることができます。

スタートビズ法律事務所に依頼するメリット

契約書チェック・作成業務に多数の経験

 スタートビズ法律事務所は,偽装請負問題に多数の経験を有し,ノウハウが蓄積されています。

 法改正やガイドラインの公表にもキャッチアップしており,請負・委託か、労働者派遣か、出向かという問題について企業様にとってベストな戦略を作成することができます。

ビジネス理解度が高い

スタートビズ法律事務所は,ビジネス理解度が高いです。

 ビジネスの現場においては,法律の正論だけではなく,契約相手に対する交渉力や自社の状況などを踏まえて,リスクを選び取る必要があります。

スタートビズ法律事務所は,企業様の法律業務を扱っており,ビジネス実務を踏まえた提案が可能です。

やり取りがスムーズ

 スタートビズ法律事務所は,企業様とのやり取りがスムーズです。

 チャットワークやスラックなどにも対応しており,チャットによる日常的なやり取りで,納得いくまで疑問を解消することができます。 

費用が明確

 スタートビズ法律事務所は,費用が明確です(スタートビズ法律事務所の弁護士費用について)。

 契約書作成・チェックについて費用の目安を明らかにしております。

 スタートビズ法律事務所では,顧問契約の相談を無料でお受けしております。お気軽にご相談ください。

▼その他労務問題についてはこちらから

IT企業・Web企業特有の労務問題とは?IT法務に強い弁護士が解説

この記事を書いた弁護士

スタートビズ法律事務所 代表弁護士

スタートビズ法律事務所代表弁護士。出身地:京都府。出身大学:東京大学。 主な取扱い分野は、「契約書作成・チェック、問題社員対応、労務・労働事件(企業側)、顧問弁護士業務、IT・スタートアップ 企業の法律問題」です。

IT・スタートアップ企業の契約書・労務問題はお任せください。

弁護士のプロフィールはこちら

TEL:03-5288-5728 FAX:03-6332-8813 受付時間 平日10:00~18:00 土日祝休み TEL:03-5288-5728 FAX:03-6332-8813 受付時間 平日10:00~18:00 土日祝休み

メールでのお問い合わせ 24時間対応

コンテンツメニュー