従業員の引き抜き問題とは?IT法務に強い弁護士が解説

最終更新日: 2023年12月2日 by it-lawyer

従業員の引き抜きについて

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スタートビズ法律事務所 代表弁護士

スタートビズ法律事務所代表弁護士。出身地:京都府。出身大学:東京大学。 主な取扱い分野は、「契約書作成・チェック、問題社員対応、労務・労働事件(企業側)、顧問弁護士業務、IT・スタートアップ 企業の法律問題」です。

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こんにちは、IT企業のための弁護士、宮岡遼です。

今回は、従業員の引き抜き問題について説明したいと思います。

従業員の引き抜き問題を放置すると、取引先を奪われて売上が大きく減少してしまったり、採用困難な人材が流出してしまうなど事業にとって大きなダメージとなります。

それにもかかわらず、この問題を放置したままとしたり、ネットで拾った有効かもわからない誓約書や十分な検討がされないまま作成された誓約書等の書類にサインさせているだけという例が多々ありますので注意が必要です。

それでは、説明していきます。

従業員の引き抜き問題とは?

従業員の引き抜き問題とは、在籍中の社員や退職した従業員が、自社の従業員に働きかけて、自ら新たに設立する会社に勧誘したり、自らの転職先の会社に転職するように働きかけることをいいます。

在職中の従業員は,会社との間の雇用契約に基づく義務として,会社に対しての誠実義務を負っています(労働契約法3条4項)。

誠実義務とは,会社の正当な利益を不当に侵害しないよう配慮する義務であるなどと説明されます。

在職中の役員については,役員という立場から,会社に対して忠実義務を負っています(会社法355条)。

また、労働契約に付随する義務として競業避止義務があります。

競業避止義務とは、労働契約の存続中は、使用者の利益に著しく反する競業行為を差し控える義務をいいます。

引き抜き行為は、これらの義務違反による債務不履行責任を負い,または不法行為責任を負うことがあります。

もっとも,引抜き行為すべてがこれらの義務に違反し違法となるわけではなく,引抜き方法が信義に反するなどの社会的相当性を逸脱する場合に,これらの義務に違反することになります。

しかし、後述の予防策をとることで、信義に反するなどの社会的相当性を逸脱する場合といえなくても義務違反とすることができ、引き抜き行為を予防したり、後から損害賠償請求をすることにより被害を回復することができるようになります。

引き抜き行為への対応を放置するリスク

引き抜き行為への対応を放置することで以下のようなリスクがあります。

・顧客を奪われることによる売上の減少

・新たな従業員の採用コスト、従業員育成コスト

・既存従業員への負荷増大、労働環境悪化、モチベーション低下

・退職した従業員による風評被害

営業部の従業員が引き抜かれることですぐに企業の売り上げが低下したり、顧客情報を持っていかれることで顧客流出のリスクがあります。

また、特にIT業界では、エンジニアの採用は容易ではなく、エンジニアの流出は企業にとって死活問題です。

引き抜き行為への予防策

予防策

大きく分けて、個々の従業員から引き抜き行為を行わない旨の誓約書をとっておく方法と就業規則に引き抜き行為を禁じる規定を定めておく方法があります。

以下の条項例を参考にしてください。

【誓約書】

1 私は会社に対し,雇用契約の期間中及び雇用契約の終了後【●】年間は,自らのため又は第三者のためを問わず,会社の従業員に対して転職の勧誘,採用活動を行わないことを誓約します。

2 前項の規定にかかわらず,転職の勧誘等を行うとする対象者,転職先の事業者及び転職の勧誘を行おうとする理由を会社に明らかにした上で,これに対する会社の書面による事前の承諾を得た場合には,前項の誓約には違反しないものとすることの説明を受け、理解しました。

3 前項に違反した場合,会社に対して【●】円の違約金を支払います。ただし,会社に違約金の金額を超える損害が生じた場合,会社はその差額分についても,別途損害賠償としてお支払いします。

ポイントは、期間の制限をしていること(1項)、違反とならない場合を認めていること(2項)、違約金を定めていること(3項)です。

というのも、過度に広範な引き抜き行為の禁止は公序良俗違反であるとして無効と解釈されてしまいます(民法90条)。

したがって、裁判所で無効とされるような誓約書にサインさせても、従業員が弁護士に相談するなどして無効であることを知れば、開き直られてしまうということです。

違約金についても、会社に生じる損害に比して過大である場合などは公序良俗に反して当該合意は無効とされるリスクがあ流ので、その従業員や役員が上げている売上か給与・役員報酬の半年分から1年分程度の間にとどめておくことが必要です。

もっとも、この判断は事案ごとに異なりますので、弁護士に相談すべきです。

また、引き抜き行為を行った場合に退職金を減額したり支給しないとする規定や受け取った退職金を返還する旨の規定を入れることもあります。
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予防で対処すべき理由

上記予防策の誓約書等をとっていれば、引き抜き行為を証明できれば損害賠償請求や差止めなどをすることが可能になります。

しかし、そのような予防策をとっていない場合、引き抜き行為の存在のみでなく、引き抜き行為の「違法性」を証明しなければなりません。

引き抜き行為が違法であるか否かは、①転職する従業員の地位・人数,②従業員の転職が会社に及ぼす影響,③転職の勧誘に用いた方法(秘密性,計画性等)に加えて,④転職した従業員の転職の理由・動機等が考慮要素となります。

これらの違法性の立証はそれなりにハードルが高く、そのハードルが交渉段階の会社の引き抜き行為をした者に対する交渉力にも大きく影響してきます。

したがって、確実に予防策を講じておくべきです。

引き抜き行為問題を弁護士に依頼するメリット

以上のとおり、引き抜き問題への対応を放置することには大きなリスクがあり、予防策を徹底すべきです。

引き抜き問題に精通した弁護士に依頼することで、自社に最適な予防策をとることができます。

また、せっかくの予防策をとっても法的に無効となってしまうものでは意味がありませんので、自社の状況、当該引き抜き行為の状況、当該社員の属性などに応じた有効な予防策をとることができます。

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