最終更新日: 2023年12月2日 by it-lawyer
この記事を書いた弁護士
スタートビズ法律事務所 代表弁護士 スタートビズ法律事務所代表弁護士。出身地:京都府。出身大学:東京大学。 主な取扱い分野は、「契約書作成・チェック、問題社員対応、労務・労働事件(企業側)、顧問弁護士業務、IT・スタートアップ 企業の法律問題」です。 IT・スタートアップ企業の契約書・労務問題はお任せください。 |
こんにちは、IT企業のための弁護士、宮岡遼です。
今回は、ITサービスの代理店契約について説明したいと思います。
ITサービスの代理店契約は、メーカーと代理店が契約するような通常のこれまでの契約とは異なる観点からの検討が求められます。
それにもかかわらず、契約書を締結していなかったり、メーカーと代理店が契約するような契約書で契約を締結している場合、想定外の損害賠償責任などの負担を負わせられたり、提携先に正当な権利を主張できなかったりしている例が多々あります。
それでは、説明していきます。
目次
ITサービスの代理店契約とは?
従来の代理店契約とは
一般的に、代理店契約とは、メーカー自ら商品販売・営業の手段やノウハウなどを持たない場合に、販売手段、営業手段やノウハウを持っている事業者との間で、販売・営業に関する提携契約を結び、商品の販売を拡大しようとする際に締結するものになります。
代理店契約と類似するものに販売店契約というものがあります。
代理店契約は商品を購入してもらう相手との契約をメーカーが直接結ぶもの、販売店契約は商品を購入してもらう相手との契約をメーカーではなく販売店が直接結ぶものとなります。
一般的な従来の代理店契約についてはこちらの記事を参照してください。
一般的な従来の販売店契約についてはこちらの記事を参照してください。
従来の代理店契約とITサービスにおける代理店契約の違い
従来は、メーカーが作成した物理的に存在する「モノ」を商品として代理店がエンドユーザに販売するというものでした。
物理的に存在する「モノ」を商品として扱うことから、在庫リスクをメーカーが負わない販売店方式とするのか、逆に在庫リスクをメーカーが負う代理店方式とするのかということが主に検討されてきました。
しかし、ITサービスは商品が物理的に存在しないソフトウェアの使用権であったり、クラウドサービスの利用権であったりすることから、在庫リスクという問題が生じません。
また、物理的に存在する「モノ」としての商品は1度商品を買ってしまえば契約関係は終了していましたが、ソフトウェアの使用権やクラウドサービスの利用権は継続的なサービス提供がされるため、継続的なサービスに関する窓口業務を誰がするのかということがよく問題となります。
したがって、ITサービスのおける代理店との契約については、従来のスキームの整理が意味を持たなくなりました。
なお、ITに関するサービスといえども、個々のエンドユーザに複製物が提供されるソフトウェアサービスやハードウェア形式でのエンドユーザにサービスが提供される場合は、未だ物理的に存在する「モノ」を商品として扱うこともあります。
しかし、物理的に存在する「モノ」以外のITサービスがメインの商品である場合は、それら物理的に存在する「モノ」は、メインの商品の付属品として副次的に扱うものとすることがよくあります。
直接使用許諾型か再使用許諾型か
ITサービスにおける代理店契約や販売店契約は、ITベンダーがエンドユーザとの間でサービスに関する契約関係を直接持つ「直接使用許諾型」か、販売パートナーがエンドユーザとの間でサービスに関する契約関係を持つ「再使用許諾型」かという整理が適切なものとなります(以下の図のとおり)。
【再使用許諾型】 | 【直接使用許諾型】 |
なお、ITサービスに関する契約では、従来のメーカーの立場を「ITベンダー」、代理店・販売店の立場を「販売パートナー」といったりします。
再使用許諾型と直接使用許諾型の違いは以下の表のとおりとなります。
通常の代理店契約がメーカーとエンドユーザが直接契約するものであることから、ITサービスにおける代理店契約では、ベンダがエンドユーザと直接契約する直接使用許諾型の契約として捉えるのが理解しやすい思います。
再使用許諾型 | 直接使用許諾型 | |
ITサービスをエンドユーザと契約する主体 | 販売パートナー | ベンダ |
ITサービスの価格決定権者 | 販売パートナー | ベンダ |
代金未回収リスクの負担者 | 販売パートナー | 契約による |
在庫リスクの負担者 | 考慮する必要がない場合が多い(なお、取引形態により考慮する必要がある場合もある) | |
販売パートナーの売上 | 再使用許諾料 | ベンダからの販売手数料 |
販売パートナーの利益 | 転売差益 | ベンダからの販売手数料 |
窓口業務 | 販売パートナーとすることが多い | ベンダとすることが多い |
販促費用 | 販売パートナーが負担することが多いが、契約次第 | 販売パートナーが負担することが少ないが、契約次第 |
直接使用許諾型においておさえるべき法的ポイント
契約の基本類型の明示
ベンダが販売パートナーに与える販売権を独占的なものとするか、非独占のものにするかを決定します。
ここでいう独占とは、当該販売パートナー以外の他の販売パートナーにもITサービスを販売してもらうことができない状態にすることをいいます。
なお、ベンダ自身が販売パートナーを介さずに自らITサービスを販売することができるか否かということは、独占非独占の点とは別に規定することとなります。
二次的な使用権の販売についての規定
民法のデフォルトルールでは、原則として、販売パートナーがさらに別の者にITサービス使用権の販売をすることはできません(民法644条の2)。
したがって、その点について可能とする場合には契約書に明示的に定めておく必要があります。
三次的な使用権の販売については、ベンダが直接関係しないところですので、これを禁止したいベンダは、販売パートナーがこれを防止するような措置をする義務を販売パートナーとの間の契約書で明示的に定めておく必要があります。
使用環境の提供規定
販売パートナーがエンドユーザにITサービスを販売する際に、販売パートナーが当該ITサービスのデモをエンドユーザに行う必要があることがあります。
そのために、販売パートナーはベンダが提供するITサービスの顧客ではないにもかかわらず、販売パートナーが当該ITサービスにログインしてサービス内を巡回できるようにしておく必要があります。
そのために、ベンダに対し、販売パートナーが商品であるITサービスを使用する環境を提供する規定を義務として構成して契約書に明示しておく必要があります。
窓口業務に関する規定
直接使用許諾型においては、ITサービスに関してエンドユーザと直接の契約関係を持つベンダがこれを担当する旨の規定を入れておきます。
なお、直接使用許諾型においても一時的な窓口のみは販売パートナーに担当させることも考えられますが、ベンダにつなぐ業務とそうでない業務の切り分けなどをめぐって販売パートナーの業務が停滞するおそれもありますので、分かりやすくベンダが担当するとするのが適切な場合が多いでしょう。
販売対価に関する規定
直接使用許諾型においては、エンドユーザからの利用料金をベンダが直接受け取る場合と販売パートナーが代理で受領してその後ベンダに送金するという2つのパターンがあり得ます。
後者の場合、販売パートナーがエンドユーザから代金を受領することを条件として、販売パートナーがベンダに料金支払義務があるとすることで、代金未回収リスクをベンダが負うとすることが可能です。
ITサービスの代理店契約について弁護士に依頼するメリット
以上のとおり、ITサービスの代理店契約においては、通常の代理店契約とは別途の観点からの検討が必要であり、ITサービスの内容に応じて柔軟に契約内容を検討して定める必要があります。
ITサービスの代理店契約書に精通した弁護士に依頼することで、リスクを最小化し、自社の事業にアクセルをかける契約書を作成することができます。
スタートビズ法律事務所では,ITサービスの代理店契約書の作成の相談をお受けしております。お気軽にご相談ください。
▼契約書作成についての記事はこちらから
▼その他契約書記事についてはこちらから
この記事を書いた弁護士
スタートビズ法律事務所 代表弁護士 スタートビズ法律事務所代表弁護士。出身地:京都府。出身大学:東京大学。 主な取扱い分野は、「契約書作成・チェック、問題社員対応、労務・労働事件(企業側)、顧問弁護士業務、IT・スタートアップ 企業の法律問題」です。 IT・スタートアップ企業の契約書・労務問題はお任せください。 |