内定の取り消しとは?IT法務に強い弁護士が解説

最終更新日: 2023年12月2日 by it-lawyer

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スタートビズ法律事務所 代表弁護士

スタートビズ法律事務所代表弁護士。出身地:京都府。出身大学:東京大学。 主な取扱い分野は、「契約書作成・チェック、問題社員対応、労務・労働事件(企業側)、顧問弁護士業務、IT・スタートアップ 企業の法律問題」です。

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こんにちは、IT企業のための弁護士、宮岡遼です。

今回は、内定取り消しをめぐる問題について説明したいと思います。

内定と内々定の違いがわからない、内々定を取り消していい場合とダメな場合の区分けがわからないと思われている方は多いのではないでしょうか?

それでは、説明していきます。

(採用)内定とは

 一般的には、企業は応募者に対して口頭で内々定を告げ、内定通知書で正式に内定とすることが多いと指摘されています。応募者は数社から内々定を得た後、内定を得る企業を絞り込んでいくものと理解されています。

 内々定についてはこちらの記事を参照してください。

内々定の取り消しとは?IT法務に強い弁護士が解説

 

内定は、「内々定」と言われるものとは違って、企業と応募者との間に労働契約が成立したものと扱われます。

 内定は、内々定とは違って、企業と応募者がお互いに拘束関係がある状態をいいます。内々定では、企業から応募者に対して就職活動をやめるよう言うことがないため就職活動を終了する応募者はあまりいないですが、内定を取得した応募者は就職活動を終了することも多く、裁判例では、このことに対する配慮を企業側に要求しています。

 内定取り消しについて検討する場合には、①「内定」に至っているといえるか、②「内定」に至っているとしても内定取り消しができるか、という2段階の検討が必要となります。

 以下、説明していきます。

入社拒否ができる場合とは?

 内定は、前述の説明のとおり、企業と応募者との間に労働契約成立していますから、自由に取り消すことができません。

 では、「内定」に至っていない場合とはどのような場合でしょうか?

 一般化は難しいですが、例えば、「内々定」である旨を伝えた段階である、口頭で採用予定であることを伝えただけで「内定」した旨の通知を送っていない場合、「採用内定通知」とのタイトルの書面を送っているがその書面には採用の日、配置先、採用職種、身分等が具体的に明示されていない場合などが考えられます。

 「内定」に至っていないといえる場合には、入社を拒否しても内定取り消しの問題は生じません。内定に至っていないので、そもそも企業と応募者は契約関係にはなく、お互いを拘束する関係性にないからです。

 しかし、慰謝料の問題が生じることがあります。この点については、こちらの内々定に関する記事で詳しく解説しておりますので参照して下さい。

内々定の取り消しとは?IT法務に強い弁護士が解説

内定取消しができるケースとは?

 判例からすると、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実に基づく内定取消しであって、客観的に合理的かつ社会通念上相当といえる場合に有効となります(最高裁昭和54年7月20日・大日本印刷事件)。

 そして、客観的に合理的かつ社会通念上相当といえるかは、内定取消し事由が定められた趣旨と目的に照らして判断されます。

 したがって、企業側は、応募者とやり取りした書類に記載した内定取り消し事由に漏れがあったりすると、内定取消しが無効とされるリスクがかなり高くなってしまいます。

 例えば、以下の判決例では、採用内定時にすでに判明していた、または十分に予測し得た事情を理由とする内定取り消しが無効とされています。

・客観的な裏付けを欠く「悪い噂」(東京地判平成16年6月23日・オプトエレクトロニクス事件

・「グルーミー」な性格(最高裁昭和54年7月20日・大日本印刷事件

・日常生活や作業に支障のない程度の左足小児麻痺の後遺症(東京高判昭和47年3月31日

 また、現職の裁判官の論文では、経営状態の悪化を理由とする場合も、他の事由と同様に採用内定後新たに判明した客観的に明らかな事情であることが必要であろうと指摘されています。

 ちなみに、博士号取得のための研究を理由に入社前研修の一部に参加しなかったことを理由としてされた内定取消しを無効としており、その裁判例では、学業への支障等といった合理的な理由に基づいて参加を取りやめる旨申し出たときは使用者はこれを免除すべき信義則上の義務があると判断されました(東京地判平成17年1月28日・宣伝会議事件)。

内定取り消しの場合の損害賠償のリスクは?

 内定取消しが無効と判断された場合は、通常の解雇が無効とされた場合と同じく、勤務開始予定日以降の社員としての地位の確認と給料の支払が認められます。

 損害賠償としては、慰謝料に加えて、再就職のために必要な期間の賃金相当額が逸失利益と認められます。

 短期間のうちに別の就職先が決まったような場合には 再就職が決まるまでの期間に限定する裁判例がありますが、新卒者の場合は、再就職が1年後になることが予想されるような事案では1年分の逸失利益が認められることもあります。

 裁判例をみると、約7.5ヶ月分の給与相当額と弁護士費用20万円(東京地判平成15年6月30日)、約8ヶ月の賃金から失業保険分を控除した額と慰謝料50万円(福井地判平成26年5月2日)が認容されているものがあります。 

新卒者と中途入社での違いに注意!

 私が内定取消しの事件で交渉に取り組んできたなかで、相手方の弁護士でも見落としていることが多かったのでこの点は要注意です。

 裁判官が執筆した論文で、中途採用の場合は、採用過程が圧縮され、勤務開始までの経過も個々に異なるうえ、採用内定通知が省略される場合も多いから、給与等の主要な雇用条件の合意や入社後の事前研修への参加依頼などによって内定の成立を認めてよい場合もあるであろうということが指摘されています。

 裁判例としては、個別に転職を勧誘した労働者から希望する年俸額を示されたのに対し、会社の代表取締役がおおむねこれを了承して具体的な勤務開始日も合意して、その後もそこでの発言を前提に会社内部で事を進めたことから、労働契約の成立(=内定の成立)を認めたものがあります(東京地判平成20年6月27日・インターネット総合研究所事件)。

 したがって、中途採用者の場合には、新卒者の場合よりも「内定」の成立が認められる場合が多くなりますから、注意が必要です

内定取り消しの原因が入社後に発覚した場合

 社員の経歴詐称などが入社後に初めて発覚した場合、既に入社後なので、内定取消しはできません。そのため、解雇を検討することになります。

 試用期間中に発覚した場合は、本採用拒否という手段を、試用期間経過後に発覚したであれば普通解雇か懲戒解雇という手段を選択することになります。

内定取消しについて弁護士宮岡遼ができること

 内定取り消しについて検討する場合には、①「内定」に至っているといえるか、②「内定」に至っているとしても内定取り消しができるか、という2段階の検討が必要となります。

 ①については、採用フローの点検、内々定者、内定者それぞれに送る通知や書面の内容を精査し、各応募者に応じた通知ないし書面を作成する必要があります。

 ②については、前述のとおり、内定取り消し事由をどのように定めていたかということが裁判では重視されますので、内定取り消し事由を漏れなく、かつ、過剰で不相当な記載を避けるようにしておくことが必須となります。

 また、内々定取消しや内定取消しに対して応募者からなんらかの請求があった場合にどのような対応をしたのかという点も、取消しの有効無効や慰謝料請求に対して重要なところとなります。

 弁護士宮岡遼は、これらの点について、多数の実績がありますので、迅速かつ有益なサポートをさせていただきます。

 ぜひお気軽にご相談ください!

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