弁明の機会とは?必要な場合や注意点をITに強い弁護士が解説

最終更新日: 2023年12月8日 by it-lawyer

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スタートビズ法律事務所 代表弁護士

スタートビズ法律事務所代表弁護士。
出身地:京都府。出身大学:東京大学。

強みは「IT・スタートアップ 企業の法律問題、契約書作成・チェック、問題社員対応、労務・労働事件(企業側)」です。

今回は、弁明の機会について説明したいと思います。

顧問先の企業様から、懲戒処分にした従業員から弁明の機会がなかったから懲戒が無効だと主張されている、懲戒処分をしたいが就業規則に書いてある弁明の機会を与えるやり方は具体的にどのようなものなのかというご相談をお受けすることがあります。

弁明の機会は、与えないと懲戒処分を一瞬で無効にしてしまうという破壊的な力を持つことがあります。

実は、労働法上、会社が懲戒処分を行うときの手続きについての具体的なルールを定めたものはありません。

しかし、企業の懲戒処分は、憲法31条の適正手続を受ける権利が及び、手続違反の懲戒処分はそれだけで無効とされてしまいます。

懲戒処分がこのように手続きに厳しいのは、懲戒処分は刑罰に類似しているので、刑事裁判と同じように適正手続を受ける権利を従業員がもつとされているからです。

どれだけ事実調査を時間や費用をかけてやっても、どれだけ従業員がひどいことをやっていても、どれだけ会社が本人へ説明する努力をしても、「弁明の機会を与えていない」という1つの事実のみで懲戒処分が一瞬で無効となってしまうことは実は多いのです。

また、退職勧奨を行う場合にも、弁明の機会を適切に与えていたかということは問題になり得ます。

この記事を最後まで読んでいただくことで、弁明の機会が必要な場合や、退職勧奨の対象者、懲戒対象者の反応に対する適切な対応方法、弁明の機会で不利になってしまわないための具体的な対応策などについて知ることができます。

それでは、説明していきます。

弁明の機会が必要な場合とは?

どのような場合があるか

懲戒処分をする際に弁明の機会が必要か否かには、以下の2通りの場合があります。

・就業規則に規定している場合
・就業規則に規定していない場合

1つずつ見ていきましょう。

就業規則等に規定している場合 

就業規則に弁明の機会を与えるとの定めがあるにもかかわらず、この規定に反して弁明の機会を与えなかった場合、懲戒処分が無効となる可能性が極めて高いものとなります。

 

この点については、千代田学園事件(東京高裁平成16年6月16日)と呼ばれる先例があります。

この先例では、「就業規則上、賞罰委員会の審議を受ける従業員に口頭または文書による弁明の機会を与えなければならないとされているにもかかわらず、従業員に対して何ら弁明の機会を付与せずして行われた懲戒解雇につき、就業規則を無視した重大な手続違反がある」としてこれを無効としました。

したがって、就業規則に弁明の機会を与えると規定しているのに、弁明の機会を与えなかった場合は、その事実だけで懲戒処分が無効になります。 

しかし、就業規則等に定められた厳格な意味での弁明付与手続を経ていない場合であっても,実質的に当該従業員から事情聴取するなどして弁明の機会を与えていると認められる場合には、懲戒処分を無効としなかった裁判例もあります。

例えば、学校法人関西大学(高校教諭・停職処分)事件(大阪高判平成20年11月14日)では、懲戒委員会において弁明の機会が与えられておらず職員懲戒規定に違反すると教諭が主張しましたが、懲戒委員会が設置した調査部会において事情聴取がなされ、懲戒処分の決定機関である理事会において弁明の機会が与えられていたことなどをもって,本件停職処分に至る手続が違法であるとは認められないと判示しました。

このような場合もありますので、懲戒処分が無効であると諦めたり、なんの根拠もなく有効だと従業員に主張して泥沼化する前に、弁護士に相談してどのような主張をすることが最適なのかを探ってください。

就業規則に規定していない場合

この場合については、以下の3つの裁判例が先例として交渉実務に影響を与えています。

 日本電信電話事件(大阪地裁平成7年5月12日)

 三井リース事業事件(東京地裁平成6年11月10日)

 日本HP本社セクハラ解雇事件(東京地裁平成17年1月31日)

 ホンダエンジニアリング事件(宇都宮地裁平成27年6月24日)

これら裁判例では、就業規則に弁明の機会を与えるという規定がなかったのであるから、弁明の機会を与えなかったからといってそれだけで懲戒処分が無効にはならないと判示しました。

つまり、就業規則に規定しているなら一発アウトだが、規定していない場合は一発アウトではないということです。

懲戒解雇という重い処分でも同じなのか?

就業規則に規定していない場合は、弁明の機会を与えていなくても一発アウトではないということをご説明しましたが、これは戒告や譴責という比較的軽めの懲戒処分に限られるのでしょうか?

読者の方も、懲戒解雇という一番重い処分はやはり一番慎重にやらなければならないということはなんとなくご存じというかそういう感覚をお持ちかもしれません。

しかし、実は、上記4つの裁判例(日本電信電話事件、三井リース事業事件、日本HP本社セクハラ解雇事件、ホンダエンジニアリング事件)は全てが懲戒解雇という一番重い懲戒処分についての事案だったのです。

ですので、懲戒処分であれば、処分の重さにかかわらず、就業規則に規定していない場合は、弁明の機会を与えていなくても一発アウトではないということになります。

だからといって弁明の機会を与えなくてよいのか?

答えは、与えるべきとなります。

 

理由は2つあります。

・懲戒処分が無効になるリスクを上げてしまうため
・虚偽申告、過大申告から会社を守るため

確かに一発アウトではないのです。

しかし、懲戒処分の有効性を判断する際に弁明の機会を与えたかということが考慮されるため、事案によっては、弁明の機会の点以外ではギリギリどっちかわからないという場合に、弁明の機会がなかったことが決め手となって、懲戒処分が無効となってしまうことがあるのです。

ちなみに、日本HP本社セクハラ解雇事件(東京地裁平成17年1月31日)の判決文においても、「一般論としては、適正手続保障の見地からみて、懲戒処分に際し、被懲戒者に対し弁明の機会を与えることが望ましい」と裁判官が指摘していますので、裁判官が弁明の機会を与えたか否かを重要視することは知っておくべきです。

また、特にハラスメント事件においては、申告者が恨みや陥れるという動機があったり、懲戒対象者からの反論を予定して先に印象操作をするために過剰な申告をするということがあり得ます。

会社としても、加害者とされている人に弁明の機会を与えれば有益な情報が得られる可能性も高いものとなります。

ですので、会社の姿勢や運用としては、「弁明の機会は必ず与える」としておくことが会社にとって最適解なのです。

最悪でも、懲戒解雇や諭旨解雇のような重い懲戒処分をする場合や懲戒対象者が事実関係を争っている場合等には、弁明の機会を与えた方が無難です。

従業員が応じない場合には?

懲戒対象者が会社の調査に協力しない場合や、弁明の聴取に応じない場合などはどうすればよいのでしょうか?

従業員の義務

判例(富士重工業事件・昭和52年12月13日)は、従業員に会社への調査に協力する義務を認めた先例があります。

「調査対象である違反行為の性質、内容、当該労働者の右違反行為見聞の機会と職務執行との関連性、より適切な調査方法の有無等諸般の事情から総合的に判断して、右調査に協力することが労務提供義務を履行する上で必要かつ合理的であると認められ」る場合には、当該従業員に調査協力義務が認められるとしています。

なお、上の判例は「使用者の一般的な支配下にあるわけではないため、いつ、いかなる場合にも調査義務があるということではない」とも言っているため、会社が不当な目的でする調査や、明らかに必要がないのにする調査などに従業員が付き合わなくていいということになるので、念のためその点は注意です。

具体的対策

「弁明の機会の付与に関する通知書」を従業員に通知して企業が弁明の機会を付与したことを証拠として残しておくべきです。

以下を参考にしてください。

                                     令和●年●月●日
●●課
●●殿
                  弁明の機会の付与にかかる通知書
                                      人事部 ●●●
 貴殿が●●●という行為を行ったものとして、就業規則第●●条により、懲戒処分を科すことを審査・検討しています。つきましては、本件に関して、貴殿に対して弁明の機会を付与しますので、下記の日時で開催される聴聞会において口頭で弁明を行うか、令和●年●月●日までに人事部宛てに弁明書(様式自由)を提出してください。なお、聴聞会において口頭で弁明を行わず、弁明書も提出しない場合には、貴殿の弁明を聞かずに懲罰の審査をすることになりますので、その旨申し添えておきます。」
                         記
                  1.日時 令和●年●月●日●時~
                  2.場所 本社●●●

そして、これにも対象者が応じなかった場合、もう1度送りましょう

2度目の通知では、対象者の応答がないこと、今回応答がなければ、弁明の機会を自ら放棄したものとみなして懲戒手続きを進める旨を通告するのがよいでしょう

2度目の通知に対象者が応じないのであれば、懲戒手続きを進めることもやむを得ません。

また、裁判を見据えると、1回だけでなく、2回やるというのが裁判官に訴えるものが強いため、会社は裁判を見据えた強気の交渉をすることができるようになります。

 

第三者の立会いを求められたら?

どのような人の立会いを求められるのか

対象者から、家族や弁護士、場合によっては労働組合などを弁明の機会に同席させたいと言われることがあります。

立会いが必要な場合とは?

 この点については、弁明の機会を与えるかという問題と同じく、2通りの場合があります。

・就業規則に規定している場合
・就業規則に規定していない場合

就業規則に規定している場合には、同席させなかった場合には、一発アウトで懲戒処分が無効となってしまう可能性が高いです。

就業規則に規定していない場合には、同席させる必要はありません。

もっとも、対象者には、就業規則に同席させるとの規定がないこと、就業規則に規定がない以上同席させなくてもよいと弁護士から回答を得ていることを説明しておくことが得策です。

そうでなければ、対象者側が、会社が労働法に無知で間違った対応をしており、争えばどうにかなると勘違いしてしまい、無益な紛争が長引いてしまう可能性があるからです。  

 

スタートビズ法律事務所ができること

就業規則への定め方のサポート

以上のとおり、就業規則に規定する場合と規定しない場合で全く異なる判断基準となることが理解できるでしょう。

現状での最適解としては、就業規則で規定はしない、しかし、毎回与えるような運用にしておく、となるでしょう。

弁明の機会を与え損ねた場合でもそのことだけで懲戒処分が無効となってしまうことは防げるからです。

しかし、既に、自社の就業規則に弁明の機会を与えるという規定が入っている場合は要注意です。

それを削除する改訂をすることは、「就業規則の不利益変更」という問題で、無効になる可能性があります。弁護士に相談してください。

弁明の機会の与え方のサポート 

弁明の機会を与えるやり方、弁明の機会を与える回数やタイミング、懲戒対象者本人から反論がされた場合の適法な対処の仕方、「弁明の機会の付与に関する通知書」「再度の弁明の機会の付与に関する通知書」の作成・チェックなどについて、裁判を見据えてサポートさせていただくことができます。

特に、懲戒対象者本人から反論がされた場合の適法な対処の仕方は、弁明の内容次第となり、慎重な対処が求められます。

柔軟・迅速な相談体制

Eメール、Chatwork、slackなどご希望の方法で、迅速にいつでもサポートさせていただきます。

スタートビズ法律事務所では、弁明の機会の問題の相談をお受けしております!

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