最終更新日: 2023年12月10日 by it-lawyer
この記事を書いた弁護士
スタートビズ法律事務所 代表弁護士
出身地:京都府。出身大学:東京大学。
強みは「IT・スタートアップ 企業の法律問題、契約書作成・チェック、問題社員対応、労務・労働事件(企業側)」です。
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こんにちは、IT企業のための弁護士、宮岡遼です。
今回は、システム保守契約について説明したいと思います。
システム保守契約は、システムの本番稼働後の法律関係を定めるものであるので、システムの本番稼働前を定めるシステム開発契約に比べて、ユーザの業務に及ぼす影響が大きいため、責任の所在や範囲を巡って紛争化することが意外に多いものです。
保守契約は、システムの開発委託に関する契約と比べて一度に支払う金額は大きくありませんが、5年や10年以上続く長期継続する契約であることから、支払総額がシステム開発契約を超えることも少なくありません。
この記事を最後までお読みいただくことで、システム保守契約の必要性、システム保守契約書において抑えるポイント、システム保守契約書の作成・チェックを弁護士に依頼するメリットについてご理解いただくことができます。
システム開発契約についてはこちらの記事を参照してください。
それでは、説明していきます。
目次
システム保守契約とは?
システム保守契約とは、システム開発契約に基づきシステム開発が終了した時点で、ユーザが継続的に業務への支障なくシステムを使用できるようにするために締結されることが多いものです。
例えば、システムの不具合補修やバージョンアップ、システムの使用に際しての問い合わせ対応等の保守業務などが中心になるでしょう。
ITシステム開発では、短期間に消費されて消滅するものではなく、ITシステムという継続的に支障なく安全に使用できるシステムが商品ですから、システムの納入を受けたユーザとしては、アフターサービスを当然に求めることとなります。
システムを納入したベンダとしても、単なるアップデート作業が必要にすぎなくて対応に要する手間が少ないにもかかわらず、システムがうまく稼働しない場合にシステム開発自体に問題があるとして責任追求されることに対する対応の手間やコストが高くなります。
そこで、システム保守契約は、システムの本番稼働後において、システム開発契約に含まれないベンダのサービスについて正面から取り決めるものになります。
システム保守契約の必要性
システムに関する問い合わせへの対応
ITシステム開発契約に基づきITシステムが納入される際には、ベンダからユーザに対してITシステムの使用方法とマニュアルデータ、又はマニュアル書面が提供されることが多いでしょう。
しかし、これらのみで不十分なことも多く、ユーザからベンダへの問い合わせの需要は必ずあります。
システム開発契約において、システム本番稼働後の問い合わせにつき規定している契約書もありますが、これの範囲などについてより具体化・明確化することが有益です。
ユーザとしては、システム開発契約書内の保守業務の条項では、内容が具体的でなくどこまで何を対応してもらえるか不明確であり、むしろ、有償のサービスとしてベンダに責任ある対応をしてもらうために、システム保守契約を締結することが実務的に重要になります。
ベンダとしては、有償のサービスとして提供することにより売上となるうえ、問合せ対応のコストの上限値を把握できることになり、ベンダ・ユーザともにシステム保守契約を締結することにはメリットがあります。
システムの不具合への対処
システム開発契約では、開発段階において請負契約に基づく契約不適合責任がベンダの責任としてあるため、システムの不具合への対処は、契約不適合責任に基づく修補請求で対応可能だと思われるかもしれません。
しかし、実際は、契約不適合責任は、システム開発契約書では「検収完了時から●年間」「検収完了時からシステムの本番稼働後1年間」など一定期間に限定されていることが多く、システムの使用期間に比べると短期間であり不十分となっていることが多いのです。
この期間を過ぎた場合には、不具合が発覚するごとに、新規の契約を締結して、修補を委託することが必要となります。
これはユーザにとっては由々しき事態であり、想定外のコストであるはずです。
以上からしても、システム保守契約は、システムの不具合について、システム開発契約では期間的に足りないところをカバーするという意味があるのです。
仕様変更・アップデートへの対処
納入されたITシステムを利用している間に、ユーザが業務の運用を変更したり、OSやハードウェア、連携して稼働するソフトウェアがアップデートされて使用環境が変化したり、消費税率の変更などの法令改正などの外部環境の変化が起こりえます。
これらは、システムの不具合ではないため、システム開発契約書の契約不適合責任では対処してもらうことはできません。
契約上の根拠がないということは、仕様変更やアップデートを契約上の義務としてベンダに求めたり、ベンダがそれを怠ったときに損害賠償を請求できないということです。
ユーザとしては、これらの仕様変更やアップデートを明確に契約上の義務としてベンダに求められるように、システム保守契約書を締結しておくことが必要となります。
ベンダとしては、あらゆる仕様変更やアップデートを契約上の義務とするような非現実的な内容とならないように、一定の工数内で対応できる範囲の仕様変更やアップデートに限定したり、一定の事由(法令の改正等)に応じた仕様変更やアップデートのみに限定する、仕様変更やアップデートを行う場合の共通的な条件を定めるにとどめるなどの工夫をする必要があるでしょう。
システム保守契約でおさえるべき法的ポイント
第三者ソフトウェアの組み込み等
納入されたITシステムには、ベンダとユーザ以外の第三者が提供するソフトウェアが組み込まれていたり、これと連携されていることがあります。
ベンダとしては、この第三者が提供するソフトウェアが稼働しなくなったり、これらに関する保守業務が終了した場合には、ユーザに対して責任のある保守業務を提供できなくなります。
そこで、これら第三者が提供するソフトウェアの稼働停止や保守業務停止に伴い、ベンダとユーザの保守契約を終了させるとの規定を定めておくことが考えられます。
偽装請負の防止
実は、システム保守契約やシステム開発契約内における保守業務では、偽装請負となってしまうリスクがあります。
ユーザからベンダに対して、システムに関する問合せをする際に、ユーザの社員からベンダの社員への指揮命令という状態が生じてしまう必要があるのです。
これを避けるために、ベンダの問合せ窓口としては、特定の個人の連絡先を指定するのではなく、グループチャットや複数人へのメールの一斉送信などを用いる必要があります。
なお、ユーザの問合せを窓口としては、担当者を指定しておくことは業務の効率化という観点からしても有益です。
システム開発契約の契約不適合責任との関係
ITシステム開発では、システムの不具合に関して、ITシステム開発契約の契約不適合責任で対応するのか、それとも、システム保守契約の義務として対応するのかということが曖昧になってしまうことが往々にしてあります。
しかし、このような状況はベンダ、ユーザ双方にとって好ましくありません。
というのも、ベンダとユーザ双方にとって、無償の契約不適合責任での対応となるのか、有償の保守業務としての対応となるのかという点について予測可能性が損なわれるためです。
また、ITシステム開発契約の契約不適合責任は、「契約不適合」といえるかという点に関してベンダとユーザとの間で合意を形成する必要があり、この点に関しても合意形成に時間がかかる可能性があり、システム不具合の早期補修という点からも好ましくありません。
そこで、システム開発契約が終了した時点で、システム保守契約を締結し、システム保守契約の締結日ないし保守開始日以降はシステム開発契約の契約不適合責任を排除するとの規定をシステム保守契約に規定しておくのが有効な解決策になると考えます。
この点からしても、システム保守契約を適時に適切な内容で締結することが重要なのです。
システム保守契約を弁護士に依頼するメリット
システム保守契約においては、法的ポイントを意識したドラフトやレビューが必須となります。
システム保守契約に精通した弁護士に依頼することで、自社の事業にアクセルをかける契約書を作成することができます。
スタートビズ法律事務所では,システム保守契約に関する相談をお受けしております。お気軽にご相談ください。
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