最終更新日: 2023年12月10日 by it-lawyer
この記事を書いた弁護士
スタートビズ法律事務所 代表弁護士
出身地:京都府。出身大学:東京大学。
強みは「IT・スタートアップ 企業の法律問題、契約書作成・チェック、問題社員対応、労務・労働事件(企業側)」です。
弁護士のプロフィールはこちら
こんにちは、IT企業のための弁護士、宮岡遼です。
今回は、ITシステム開発での損害賠償責任について説明したいと思います。
ITシステム開発では、仕様変更などをめぐって損害賠償が問題になることが多く、システム開発の着手から完成まで長期間を要することから、損害賠償額が高額化する傾向があります。
しかし、契約書の作り込みや早期の対応でリスクを軽減することが可能になります。
この記事を最後まで読んでいただくことで、システム開発で損害賠償責任が発生してしまう場合や損害賠償額に関する対策、システム開発の損害賠償責任の問題での弁護士費用の相場などについて知ることができます。
それでは、説明していきます。
目次
システム開発で損害賠償責任が発生する法的根拠
法的根拠
システム開発では、契約で決めた義務の履行が遅滞したり、受託者側の責任で義務を履行することが不能になった場合の債務不履行責任に基づく損害賠償責任と、契約の完成品として定めたものが完成されなかった場合の契約不適合責任に基づく損害賠償責任があります(法律的な正確な分類としては、契約不適合責任は債務不履行責任の一部と整理されています。)。
また、不法行為に基づく損害賠償責任という責任もあります。
損害賠償責任を踏まえた対処
システム開発では、契約を締結するときにこれら損害賠償が問題となった場合に備えて契約書を整備したり、日々の業務フローを整備しておくことが重要になります。
システム開発の委託者としては、受託者に依頼したのに結局システムが完成せずまた新たに別の受託者にシステム開発を依頼しなければならなかったり、誤って従前の委託者のプログラムを消失された場合などに、時間やお金の損害が大きくなりますので、損害賠償としてこれをしっかり請求して回収することができるようにしておく必要があります。
システム開発の受託者としては、委託者の不合理な仕様変更の要請などによりシステムの開発が頓挫した場合なども想定して、損害賠償責任の内容や金額を合理的な範囲に限定しておく必要があります。
このように、自社の立場が委託者か受託者かということは決定的に重要ですので、契約書を作成したり交渉する際には意識するようにしましょう。
契約書による損害賠償責任への対策
賠償する損害の種類
よくみられるのは、賠償する損害を「直接損害、現実損害、通常損害に限る」というような規定です。
しかし、実は、「直接損害」「現実損害」という言葉には明確な規定は存在せず、「通常損害」と対置される「特別損害」との線引きも明確なものはありません。
契約書への規定の仕方としては、「逸失利益を含まない」「特別の事情から生じた損害に限る」などと積極的に規定する方が損害賠償責任のリスクは軽減されます。
もっとも、このような文言を適切に規定しなかった場合には、裁判所で反対解釈されてしまい、「それら以外の損害は全て含む趣旨の規定である」として、想定外の損害まで賠償責任を負うリスクもあります。
この点については、各損害項目の裁判例での扱われ方や当該契約の実情に応じて、それぞれ規定の仕方を決定する必要があります。
損害賠償額の上限を定める規定について
受託側は検討必須
システム開発においては、期間が数年に及ぶものも珍しくないことなどから、損害賠償額が莫大なものになってしまう場合があります。
そのため、契約書において、賠償額を合理的な範囲に限定する趣旨で、あらかじめ損害賠償額について上限を定めておくことがよくあります。
例えば、「ただし、損害賠償の額は、当該損害が発生した時点において本契約に基づき相手方から受領していた金額の合計額を上限とする。」などの規定です。
契約全体を踏まえた規定にすることが必要
もっとも、契約の内容や一般の取引通念からしてあまりにも低い金額を損賠賠償額の上限として定めた場合には、裁判所で当該規定が無効となり、上限規定として機能しないリスクもあります。
例えば、東京地裁平成16年4月26日では、契約上定められていた損害賠償の上限が低すぎるとして、損害賠償の上限を定める条項を上回る損害賠償が認められました。
つまり、受託側からすれば、せっかく上限規定を定めても、それが低すぎるものであったばっかりに、裁判官に損害賠償額を決められてしまうということが起こり得るのです。
逆に、委託側からすれば、上限規定で定める上限額が低すぎる金額に設定されていると考えられる場合には、この裁判例を根拠に、法的主張を組み立てて交渉することで、裁判することなしにより多くの賠償金を取得することもできるのです。
スタートビズ法律事務所では、この問題に対しては、上限規定と併せて最低額の違約金を別に設ける方法などによって、対処するなどのアドバイスをさせていただいております。
この問題については、過去の裁判例や当該契約の内容などからして、合理的な範囲の上限規定を設定しておく必要がありますので、弁護士によるリーガルチェックを受ける価値があるでしょう。
IT企業特有の契約書に関する記事はこちらを参考にしてください。
損害賠償責任を負う期間と起算点
民法改正により、契約不適合責任を追求できる期間制限について、契約不適合があることを知ってから1年間となりました。
民法改正前は、目的物の引き渡しから1年以内に目的物の瑕疵の修補等の請求をする必要があったことに比べると、システム開発の受託者からするとかなり責任が加重されたことになります。
もっとも、この点については契約書で変更可能であるので、受託者側としては、「検収完了時から●年間」「検収完了時からシステムの本番稼働後1年間」というように、契約により修正してシステム開発の受託者に過分な負担とならないようにすることが必要です。
委託者側としては、この点について受託者側が修正を求めてこない場合には、この問題に触れずに契約書を締結してしまうのが賢明な判断となります。
システム開発案件で損害賠償責任が発生する主な要因
システム開発では、仕様の変更、完成品に対する協議の不調や認識齟齬、契約書なしでの開発開始などが典型的なトラブルの発生原因として挙げられます。
特に一定規模以上のシステムの開発となる場合には、要件定義段階で明確な完成品の姿を描くことが困難であり、ユーザーの意向、市場環境などによって段々と完成品の輪郭を明確にしていくことも多いです。
そのような場合には、システム開発の委託者が想定していた以上の開発対象・開発工程が必要となり、想定外の追加の委託金額が提示されるなどして紛争になることもあります。
また、仕様の変更要請が多岐にわたる場合には、当初の合意の範囲内なのかということをめぐっていずれかの段階で意見が異なることもあります。
これらに対しては、各段階で合意書を締結しておく、その合意書内容どおりにならない場合でも合理的な説明義務を履行した場合には責任が軽減・免除されると定めるなどのアイデアで委託者側・受託者側の双方にとって合理的な方法をとっておくことなどが考えられます。
また、あまり自信のないこちらの義務については契約上の義務とせず、努力義務とするという方法もあります。このあたりのリーガルチェックは弁護士の腕の見せ所ですね。
弁護士に相談すべきタイミングについてはこちらの記事を参考にしてください。
システム開発の損害賠償問題での弁護士費用の相場・目安
現在、弁護士費用は自由化されているため、システム開発の損害賠償問題における弁護士費用は、弁護士事務所によって異なるものです。
また、弁護士費用は、契約書作成・チェック、和解交渉、裁判などそれぞれ業務の内容によって異なります。
目安としては、契約書作成などの業務については、弁護士1人の1時間あたりの稼働に対して最低2万円〜多くても10万円の金額を設定しているところが多いでしょう。
裁判については、弁護士1人の1時間あたりの稼働に対して最低2万円〜多くても10万円としてしまうと、弁護士費用が莫大となってしまうため、かなり金額が抑えられているのが通例でしょう。
もっとも、顧問契約を締結している場合は、契約書作成などの業務は顧問契約の範囲内で、裁判などの業務は顧問割引によりかなりお得に利用できるでしょう。
例えば、スタートビズ法律事務所ではシステム開発の損害賠償の業務の弁護士費用は以下のようになります。
契約書作成・チェック
5万円〜30万円
チェックなのか作成なのか、分量などによってお見積りさせていただきます。
相手方との交渉
着手金:20万円
報酬金:回収額の25%
裁判(裁判からご依頼いただく場合)
着手金:50万円
報酬金:回収額の25%
裁判(相手方との交渉から移行した場合)
着手金:30万円
報酬金:回収額の25%
顧問契約
月額約5万円〜
契約書・チェックなど:顧問契約の範囲内
裁判:顧問割引20%等
システム開発の損害賠償責任に関する問題でスタートビズ法律事務所ができること
契約書の作成・チェックと契約書締結交渉のサポート
ここが一番重要です。
前述のとおり、委託側にとっては損害賠償の範囲をできる限り広くし、損害賠償額を可能な限り高額にしておくための技術があります。
また、契約書締結交渉においては、理屈をもってこちらに有利な契約文言とするように交渉する必要があります。
大企業を相手に契約を締結する中小企業でも、弁護士のサポートを受けて、しっかりした理由をもって契約文言の修正を求めれば、大企業の法務部は意外とこれを受け入れていることが多いものです。
スタートビズ法律事務所では、契約書の作成・チェックのみならず、1つ1つの契約文言の修正について、交渉先の企業に対するコメントを作成します。
ご依頼企業様としては、スタートビズ法律事務所が作成した修正案と修正に関するコメントをそのまま交渉先の企業にお送りしていただくことが可能です。
損害賠償請求交渉・裁判のサポート
委託側として受託企業に損害賠償請求をする、受託側として委託企業からの損害賠償請求に対する交渉を行う、などの場合にアドバイスしたり交渉を代理するようご依頼いただけます。
このような交渉においては、適用される契約書の文言と裁判になった場合にどのような判断がなされる可能性が高いか、自社と相手の企業にとっての価値が高いリソースは何かなどといったことから、自社にとって最適なタイミングで最適な内容で和解をする必要があります。
裁判になった場合には、どのような主張を構成することが最善か、どのような証拠を提出することが最善か、そのタイミングと裁判官へのプレゼン方法について、慎重に選択する必要があります。
ITシステム開発にまつわる問題へのサポート
ITシステム開発では、慢性的なエンジニア不足や技術の多様化という背景から、SES(System Engineering Service)契約が締結されることがあります。
2018年時点でのIT人材の需要と供給の差は22万人あり、2030年に最大約79万人のIT人材が不足すると予測されています(経済産業省の「IT人材需給に関する調査」参照、最低シナリオでも約16万人不足すると試算)。
SES契約に限りませんが、ITシステム開発では、偽装請負の問題が出てきやすいため要注意です。
また、ITシステム開発契約と類似するものとしてシステム保守契約というものもあります。
この記事を書いた弁護士
スタートビズ法律事務所 代表弁護士
出身地:京都府。出身大学:東京大学。
強みは「IT・スタートアップ 企業の法律問題、契約書作成・チェック、問題社員対応、労務・労働事件(企業側)」です。